KDDI × Acompany|「競争」から「共創」へ。データクリーンルームとConfidential Computingが拓くデータコラボレーションの展望

公開日:2026.08.31

サードパーティCookieをめぐる環境変化、顧客行動の多様化、個人情報保護への要請の高まり—。
企業がデータを活用して顧客理解を深めるうえで、自社データだけでは十分な示唆を得にくい時代になりつつあります。

一方で、企業が持つデータは、重要な経営資産でもあります。他社のデータと掛け合わせて分析の精度を高めたい一方で、生データをそのまま外部に渡すことは容易ではありません。個人データの取り扱いという観点でも、簡単には踏み切れないのが実情です。

そうした課題に対し、KDDIが真正面から取り組んでいるのが、データクリーンルーム(Data Clean Room、以下DCR)を活用したデータコラボレーションです。データをそのまま渡すのではなく、プライバシー保護技術(Privacy-enhancing technologies、以下PETs)を用いながら、安全にデータを突合・分析し、新たな事業価値を生み出します。

本記事では、KDDIでデータコラボレーション構想を推進する山口 求さんをお迎えし、Acompanyの植木 修造が、DCRの現在地、技術的な安全性、そしてAI時代における今後の展望について伺いました。

【プロフィール】

山口 求(Motomu Yamaguchi):KDDI株式会社 パーソナルグロース事業本部 パートナーグロース本部 マーケティングソリューション部長。
KDDI株式会社入社後、コンシューママーケティング部門に従事。2019年より本部横断の分析環境高度化および高度分析業務に着手し、2020年に高度専門職の認定を受け、本部横断のマーケティングDXプロジェクトを推進。2023年にシニアエキスパートに就任し、中期経営計画の核となる全社横断のマーケティングDXプロジェクトをリード。2025年、KDDIデータをレバレッジとしたBtoBtoC事業の立ち上げに伴い新部門を設立し、現職に就任。中小企業診断士、ITストラテジスト。

植木 修造(Shuzo Ueki):株式会社Acompany 取締役CFO
東京大学法学部卒業後、大手製薬企業の営業・マーケティング戦略に関するコンサルティングに従事。その後、2018年4月株式会社ドリームインキュベータに入社し、主に戦略コンサルティング部門にて、ヘルスケア、エネルギー、保険など様々な業界の大企業における新規事業の企画・立案支援と、大企業からのカーブアウトやベンチャー企業の資金調達支援を担当。2020年1月、Spiral Capital株式会社に参画。2024年2月、株式会社Acompany社外取締役、2025年6月より正社員として入社。


データコラボレーションの現在地と未来

植木:KDDIにおけるデータコラボレーションの位置づけを教えてください。

山口:私たちの組織では、KDDIグループを含めたさまざまなデータを活用し、パートナー企業の皆さまと新たな価値を生み出すことを大きなミッションにしています。

その中でも、DCRは非常に重要な成長領域のひとつです。ただ、DCRそのものはあくまで手段だと考えています。
重要なのは、データとデータを安全につなぐことで、どのような価値を生み出せるかです。特に今、私たちが力を入れているのがリテールメディアです。リテールメディアとデDCRを掛け合わせることで、次世代のリテールメディアをつくることができると考えています。

植木:データコラボレーションの重要性が高まっている背景には、どのような変化があるのでしょうか。

山口:大きくは、社会の変化と技術的な変化の2つがあると思っています。

1つ目は、サードパーティCookie規制の流れです。これまでのように外部データを使って効果的なターゲティングを行うことが難しくなり、ファーストパーティデータの重要性が高まっています。
一方で、ファーストパーティデータには課題もあります。特に大きいのがボリュームで、十分な分析精度を出すための規模を確保できないケースがあります。

2つ目は、お客さまの行動が多様化していることです。昔のように「この人は○○が好き」と単純に括ることが難しくなっています。少ないファーストパーティデータだけでは、お客さまの行動や関心をクリアに捉えきれない。だからこそ、企業間でデータを安全に掛け合わせるデータコラボレーションの重要性が高まっているのだと思います。

植木:自社のデータだけでは見えない顧客像を、他社とのデータコラボレーションによって補完していくということですね。

山口:はい。各社が持つデータには、それぞれ異なる価値があります。それらを安全に掛け合わせることができれば、単独では見えなかった顧客理解や、新しいマーケティング施策につなげられると考えています。

KDDIにおけるデータコラボレーションの重要性

植木:データコラボレーションは重要である一方、まだ一般的に広く普及しているとは言い切れません。どこにハードルがあるのでしょうか。

山口:「提携はしたけれど、実際のデータコラボレーションまでは進んでいない」という企業は多いと思います。ハードルは大きく2つあります。

1つ目は、法規制への対応です。個人情報保護法を踏まえて、各社のプライバシーポリシーをどう整備するのか、何をどこまでクリアすればデータコラボレーションが可能なのか、その整理がまだ追いついていない企業も多いと感じています。

2つ目は、技術的にどう担保するかです。た「個人情報を非個人情報化する」と言葉にするのは簡単ですが、何をどうすれば不可逆的に変換され、個人情報に戻せない状態(非個人情報化することができる)になるのか。それを技術的に担保するのは簡単ではありません。

植木:データはコピーできてしまうものでもあります。企業にとって価値の源泉であるデータを、どう守るかも重要な論点ですね。

山口:おっしゃる通りです。企業が持つデータは、競争優位性の源泉です。それを単純にコピーして渡してしまうと、価値を守ることができません。

最近は、データをコピーするのではなく、参照のみで突合する技術も進化しています。さらにConfidential Computing(秘密計算)を組み合わせることで、突合の過程や中身を、KDDI側からもパートナー企業側からも見えない状態にできます。

「コピーしない」「中身を見せない」「必要な結果だけを得る」。こうした技術的な仕組みが、データコラボレーションを前に進めるうえで非常に重要だと考えています。

KDDIのデータクリーンルーム(DCR)とは

植木:改めて、KDDIのDCRはどのようなサービスなのでしょうか。

山口:世の中にはさまざまなDCRがありますが、KDDIの特徴は、単にDCRという技術や箱を提供しているだけではない点です。

私たちは通信キャリアとして、位置情報をはじめとするリッチなデータを保有するデータホルダーでもあります。つまりDCRという仕組みと、KDDIが持つビッグデータを組み合わせて提供できる、ここが大きな特徴です。

植木:具体的には、どのようなデータをインプットし、どのようなアウトプットが得られるのでしょうか。

山口:多いケースとしては、KDDIが保有する位置情報と、パートナー企業が持つPOSデータを掛け合わせる形です。

例えば小売企業であれば、POSデータと行動データを組み合わせることで、お客さまが買い物をする前にどのような行動をしていたのか、買い物をした後にどのような動きをしているのかを分析できます。

ただし、アウトプットとして個人単位の生データをそのまま出すわけではありません。突合したデータをもとに、統計化された結果として可視化したり、しきい値を設けて個人が特定されない形で分析結果を出したりします。また、連合学習を用いることで、予測モデルや施策に活用できる形のアウトプットを得ることもできます。

※データクリーンルーム(DCR)とは

複数の企業が持つデータを、安全な環境で連携・分析するための仕組みです。個人情報や機密データをそのまま相手先へ渡すのではなく、秘匿化、統計化、アクセス制御などを組み合わせることで、プライバシー保護とデータ活用の両立を目指します。

データクリーンルーム(DCR)のユースケースについて

植木:実際に、どのような業界で活用が進んでいるのでしょうか。

山口:大きく3つあります。

1つ目は、エンターテインメント領域です。エンタメ企業が持つデータからは、ユーザーがどのようなジャンルに関心を持っているのかが非常にリッチに分かります。そのデータとKDDIの行動データを掛け合わせることで、趣味嗜好に合わせたマーケティング施策につなげることができます。

2つ目は、街とのコラボレーションです。街に来場された方をビーコンなどの技術で検知し、ショッピングセンターのアプリなどと連携することで、その方の関心に合ったレストランやショップ、クーポンを届ける1to1の取り組みです。街ぐるみのデータコラボレーションとして取り組んでいます。

3つ目は、金融領域です。金融機関の方々もデータコラボレーションへの関心は非常に高いです。金融はさまざまな法律や規制に関わるため、より高い安全性が求められます。技術的な担保を含めて、現在さまざまなトライアルを進めているところです。

KDDIのデータクリーンルーム(DCR)はなぜ選ばれるのか

植木:さまざまなDCRがある中で、KDDIが選ばれる価値とはなんでしょうか。

山口:DCRを提供されている企業は基本的にDCRの箱を提供されていることが多いです。一方でKDDIは我々のデータとDCRをセットで提供できることかなと。

特にニーズがあるのは我々の位置情報です。通信キャリアならではのデータとして、お問い合わせを多くいただきます。

加えて、KDDIグループにはECや小売、例えばローソンなど、さまざまな領域のデータがあります。そうしたリッチなデータを活用したいという声も多くいただいています。

第三者提供同意の壁と、非個人情報化への取り組み

植木:データ活用においては、第三者提供の同意を取得しているかどうかも大きな論点です。実務上、どの程度のハードルがあるのでしょうか。

山口:第三者提供の同意をいただくことは非常に重要なプロセスです。一方で、それをしっかり取得するには、かなりの期間と費用が必要になります。

期間でいうと、短くても3か月以上はかかると思います。さらに、お客さまに同意いただくためには、そのお客さまの目に触れるよう導線をきちんと設計する必要があります。例えば、キャンペーンを設計したり、告知を行ったりと、お客さまに認識いただくための活動にも大きな費用がかかります。

自社利用のための同意は取得している企業が多いと思いますが、第三者に提供することについて、目的ごとに明示的な同意を取れている企業はまだ少ないのではないでしょうか。KDDIはお客さまに対して、明示的に目的ごとに同意を取っていくことをしていますが、ここまでできている企業は少ないのではないでしょうか。

植木:同意を再取得するには、時間もコストもかかる。一方で、活用できるデータが限定されると、ビジネス機会も限定されてしまうわけですね。

山口:そうです。だからこそ、第三者提供同意を取得していないデータについても、個人情報ではない形に不可逆的に変換し、その状態を技術的・法務的に担保したうえで活用していくことが重要だと考えています。

もちろん、ここは慎重に取り組むべき領域です。ただ、適切に非個人情報化し、安全性を担保できれば、データ活用の可能性は大きく広がります。時間と費用の壁を乗り越え、新しいビジネスチャンスを生み出せると考えています。

同意なしデータの活用によりビジネス価値は広がるのか

植木:「第三者提供同意を取得していないデータも活用できる可能性がある」と聞くと、不安を感じる方もいるかもしれません。安全性はどのように担保しているのでしょうか。

山口:個人情報を非個人情報化して、しっかり担保することが重要だと思っています。私たちは、非個人情報化する仕組みとして大きく3つのロックをかけています。

1つ目は、インプットプライバシーです。個人を識別し得る情報にソルト値を加えてハッシュ化し、変換後にそのソルト値を破棄します。これにより、もとの個人情報に戻すことができない状態をつくります。この処理は、KDDI側のデータにも、パートナー企業側のデータにも同様に行います。

2つ目は、突合処理におけるConfidential Computing(秘密計算)です。非個人情報化されたデータ同士を突合する際にも、その中身をKDDIもパートナー企業も見られない状態にします。中では高い精度でデータがつながりますが、その過程は秘匿化されています。

3つ目は、アウトプットプライバシーです。最終的な出力時には、しきい値を設け、統計化した形で結果を出します。分析結果から個人が特定されるリスクを抑えるためです。

この「入力」「処理」「出力」の三重のロックによって、データの安全性を高めています。

植木:ここでいうConfidential Computing(秘密計算)についても補足させてください。

一般的に、データは保存されているときや送信されているときには暗号化されています。実際に分析や処理を行うタイミングでは、いったん復号され、生データとして扱われることが多い。つまり、処理中の環境を覗かれると、データが見えてしまうリスクがあります。

Confidential Computing(秘密計算)は、データを秘匿化したまま処理するための技術です。CPUやGPUの中に、いわば金庫のような安全な実行環境をつくり、その中でデータを処理します。

DCRでは、複数企業のデータが集まり、突合される瞬間が非常に重要です。仮に非個人情報化されたデータであっても、データが集まることで情報量が増え、リスクが高まる可能性があります。だからこそ、その処理自体を誰にも覗かれない環境で行うことが重要になります。

なぜKDDIはConfidential Computing(秘密計算)を選択したのか

植木:Confidential Computing(秘密計算)を含め、プライバシー保護技術は多くありますが、なぜKDDIはConfidential Computing(秘密計算)を選んだのでしょうか。

山口:インプットプライバシーとアウトプットプライバシーに加えて、処理中の安全性をどう担保するか。その追加の技術として唯一候補に上がったのが、Confidential Computing(秘密計算)でした。

Confidential Computing(秘密計算)にも、準同型暗号や秘密分散などさまざまな方式があります。その中で今回採用したのが、Acompanyさんが得意とするハードウェアで安全性を担保するConfidential Computingです。


当時、プロジェクトの立ち上げメンバーには、プライバシーポリシーと機械学習、それぞれの領域の第一人者がいました。そのうちの一人は当時KDDI総合研究所に所属しており、PETsをはじめ、データを安全に活用するためのさまざまな技術を研究していました。 彼らから、今回の用途にはConfidential Computingが最適だという提案があり、Confidential Computing(秘密計算)を採用するに至りました。

植木:AcompanyとKDDIの取り組みは、AI需要の高まりから、DCRに加えて、AIやLLMへの展開にもつながるものだと考えています。今後の可能性をどう見ていますか。

山口:AIは、KDDIとしても非常に力を入れている領域ですし、社会全体にとっても切っても切り離せないものになっています。

一方で、AI活用では「本来入れてはいけないデータをAIに投入してしまう」リスクがあります。本人は漏えいさせたつもりがなくても、結果として情報漏えいにつながってしまうケースはあり得ます。

DCRは、それを防ぐ有効な手段のひとつだと考えています。DCRをビルトインしたAIソリューションをつくることで、AIに投入するデータの機密性やプライバシー性を担保しながら、安心してAIを活用できる環境を提供できるのではないかと考えています。

今後、Acompanyさんと一緒に、そうしたプロダクトを形にしていきたいですね。

植木:AIに入れる前のデータの段階から、機密性やプライバシー性を担保する。その基盤として、DCRやConfidential Computing(秘密計算)が活用できるということですね。

山口:そうですね。AI活用が広がるほど、入力データをどう守るかはますます重要になります。そこに対して、DCRの考え方や技術は非常に有効だと思います。

KDDIのデータコラボレーションの未来

植木:今後、どのような業種や企業とデータコラボレーションを進めていきたいですか。

山口:DCRはデータにより価値を生み出す手段に過ぎないと考えています。これを踏まえた上で相性が良いのは、リテールメディアの領域だと思っています。特に小売業界の皆さまと組むことで、大きな価値を生み出せると考えています。

例えば、au PAYが使える加盟店には小売店が多くあります。小売店が持つPOSデータと、KDDIの位置情報を掛け合わせることで、加盟店の売上向上につながる取り組みができるはずです。

分析として価値を提供することももちろん重要ですが、メディアと組み合わせてお客さまの集客を最大化することで価値を提供していきたいです。

植木:実際の施策では、1to1に近いターゲティングまで可能なのでしょうか。それとも、セグメント単位での活用になるのでしょうか。

山口:両方あります。

小売店で誰が購入したかが分かるのは、ポイントカードを提示した場合や、その小売店専用の決済を使った場合などに限られます。そうしたデータについては、Confidential Computing(秘密計算)を使って突合し、アプリなどを通じて1to1に近い訴求を行うことができます。

一方で、多くの購買データでは、誰が買ったかまでは分かりません。その場合でも、KDDIの位置情報などを用いることで、統計的にお客さまの傾向を把握し、セグメント単位で訴求できます。

高精度にアプローチできるケースと、セグメントで捉えるケース。その両方を組み合わせることで、高いマーケティング効果を出せると考えています。

植木:データ活用のノウハウがない企業にとっても、KDDIに相談できる余地はあるのでしょうか。

山口:はい。私たちは、コンサルティングも含めて、データによる価値創出をエンドツーエンドで支援していきたいと考えています。

また、通信会社であるKDDIがハブになることで、パートナー企業や生活者に対する説明、信頼関係の構築にも貢献できると思っています。いわば、KDDIをトラストアンカーとして活用していただくイメージです。

データ活用のノウハウが十分でない企業でも、まずはご相談いただければと思います。

「競争」から「共創」へ

植木:最後に、中長期的にデータコラボレーションをどのように広げていきたいか、展望を聞かせてください。

山口:私たちの方針にも通じるのですが、孫子の言葉に「百戦百勝は善の善なる者に非ず」というものがあります。

高度経済成長期のように、ただ戦って、勝って、シェアを奪い合う時代ではなくなっていると思います。これからは、かけっこのように速さを競う競争から、共につくるための「共創」へシフトしていくべきです。

データコラボレーションは、「共創」を実現する非常に有効な手段です。世の中には、さまざまな価値が点在しています。それらをデータコラボレーションによってつなぎ、まとめていくことで、価値の塊を大きくしていける。これこそが、KDDIのデータコラボレーション構想の軸だと考えています。

植木:これまでは、各社が自社データを囲い込み、競争優位を築いてきました。しかしこれからは、データを安全につなぎ、互いの価値を掛け合わせることで、新しい市場や顧客体験を共につくる時代へ移っていく。

その実現に向けて、KDDIのDCR、そしてAcompanyのConfidential Computing(秘密計算)技術は、企業間データ活用の新たな基盤になっていきそうです。

本日はありがとうございました。


対談の様子はYouTubeでも公開中

KDDI × Acompanyの特別対談を、Acompany公式YouTubeチャンネルで公開しています。

Confidential Computing・データ活用に関するお問い合わせ

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Hikaru Hamada のプロフィール画像

WRITER

Hikaru Hamada

Acompany / 広報/ プロジェクトマネージャー

社内外を巻き込んだプロジェクトを推進。広報のほか、Public Affairs、プライバシーテック協会事務局を担当

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