EUのデータ保護機関が注目する「Confidential Computing」とは?
公開日:2026.06.04
TechSonarとは
2025年11月、欧州データ保護監督機関(以下「EDPS」といいます。)が「TechSonar 2025-2026 REPORT」(以下「本レポート」といいます。)を公表しました。本レポートは、毎年11月頃に発行されるもので、「今後数年で重要性が高まる技術トレンド」をプライバシー等への影響という観点を加味して発表されます。
※欧州データ保護監督機関(EDPS)とは:EUの機関が個人データを適切に扱っているかを監視する独立したデータ保護機関です。単にルールを形骸化させないだけでなく、未来のテクノロジーがプライバシーに与える影響をいち早く予測・分析する役割も担っており、その取組みの代表例が、本レポートである「TechSonar」です。
本レポートは、「規制当局が次に注目している技術」を示すシグナルとして、EU圏の技術者・政策立案者・企業から注目されています。EUの規制動向は日本を含む世界の標準化にも大きな影響を与えるため、本レポートの内容はEU圏外においても無関係ではありません。
2025-2026年版の6つのトレンド
「TechSonar 2025-2026」では、以下の6つのトレンドが取り上げられました。
本レポートが選定した6つのトレンドのうち、5つはAI関連技術です。AIが様々な領域に浸透しつつある現代において、EDPSもその動向に強い関心を寄せていることが伺えます。そのような中で、AIに直接関連しない技術として唯一選定されたのがConfidential Computingです。数多くのAI技術が注目を集める中でCCが選ばれたという事実は、Confidential Computingの技術それ自体の重要性を示すものといえるのではないでしょうか。
本稿では、6つのトレンドのうち、当社の専門領域でもあるConfidential Computingについて、詳しく取り上げたいと思います。
Confidential Computing
本レポートでは、「Confidential Computing」(以下「CC」といいます。)について、「技術の概要」、「CCの動向」、「個人への影響」の3つのセクションで解説しています。要旨は以下となります。
- 技術の概要
CCとは、「保存中」と「転送中」が中心だったデータ保護を「処理中」にまで拡張する技術です。Confidential Computing Consortium(CCの普及を目指す国際団体)ではCCを「ハードウェアベースのTEE(Trusted Execution Environment:信頼実行環境)の中で計算を行うことで、使用中のデータを保護する技術」と定義しています。TEEはプロセッサ内に隔離された安全な領域をいい、「処理中」のデータを外部から遮断することで不正アクセス等を防ぎながら安全に計算を実行します。CCが保証するのは、データの機密性(処理中に外部から見られない)、データの完全性(処理中に改ざんされない)、コードの完全性(実行中のコードが書き換えられない)の3つとされています。
- CCの動向
CCは、2004年のArm TrustZone、2015年のIntel SGX、2017年のAMD SEVと段階的に普及してきた技術であり、現在はNVIDIAがGPUにCCを統合するなど、AI処理との融合が進んでいます。市場は2032年には約3,500億ドル規模に達するとも予測されており、CCはいずれ「データの暗号化」と同程度に当たり前の技術になると見られています。
- 個人への影響
CCは、医療データや金融データ等、漏洩が深刻な結果をもたらす領域で特に有効とされています。例えば、デジタルIDウォレットでのなりすまし防止やクラウド上での機密データ処理における不正アクセス防止が具体的な活用例として挙げられています。また、GDPR(EU一般データ保護規則)が定めるプライバシー・バイ・デザイン(企画・設計段階からプライバシー保護を組み込む考え方)の原則を実装する手段としても評価されています。
一方で、サプライチェーン攻撃やサイドチャネル攻撃(処理中の消費電力や電磁波などから情報を盗む手法)には対応できないという限界も明示されており、万能な技術ではありません。CCにおける信頼の起点はハードウェアメーカーにあるため、サプライチェーン全体の保護が不可欠であるとも指摘されています。
おわりに
本稿では、EDPS(欧州データ保護監督機関)が公表した「TechSonar 2025-2026」の技術トレンドから今後数年で重要性が極めて高まる「Confidential Computing」についてご紹介しました。
数多くのAI関連技術が選定される中で、AIに直接関連しない技術として唯一CCが選ばれたという事実は、今後のデータ保護において本技術が不可欠であるというEU当局のメッセージといえます。
生成AIやAIエージェントの活用が加速するこれからの時代、企業は個人データや機密データ等のセンシティブなデータをAIに取扱わせる機会が増えていきます。その際、「保存中」や「転送中」の暗号化だけでなく、AIがデータを読み込んで計算を行う「処理中」のデータをどう守るかが実務を進める上で重要となります。
株式会社Acompanyでは、Confidential Computingをはじめとした機密データや個人データを安全に守りながらAI活用を進めるためのプロダクトやサービスを提供しています。「機密データ等を安全にAI活用に繋げたい」といった課題をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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