情報科学の最先端から、秘密計算の最前線へ。悩み抜いた末に、新卒スタートアップを選んだ話。
公開日:2026.05.01
※この記事は『2025年8月13日』に公開した内容をもとに掲載しています。
新卒としてAcompanyというスタートアップを選んだ背景や思いを伝えることで、就活においてより自由な意思決定を促したいと思い、今回の執筆に至りました。
特に、進路にまだ迷いがある方やスタートアップに興味がある方、就活全般に悩んでいる方などに読んでもらえると嬉しいです。
経歴
- 2019~2023年: 東京大学工学部電子情報工学科
- プロセッサ・コンパイラの研究
- Linux FoundationのMentorshipプログラムでOSSプロジェクトへの参加
- 2023~2025年: 東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻
- 差分プライバシーというプライバシー保護技術(PETs)の一つの研究
- 複数のメガベン・スタートアップでエンジニアインターンを経験
- 2025年~: Acompanyに新卒入社
皆さん本当に自分の意思で就活をしているでしょうか?
大企業の内定を辞退
実は自分はいくつかの企業から内定をもらっていて、その中からある企業の内定をかつては承諾していました。
その企業は、修士2年の9月に内定承諾したのですが、その数ヶ月後から「本当にこれで良いのか?」という疑問が自分の頭の中を支配していました。
このように自分の意思決定に自信が持てなかったのは、以下の二つの言葉がずっと頭に引っかかっていたからです。これらはそれぞれ、ある別々のスタートアップの代表に就活相談をした時にかけられた言葉です。
「逆張りするのは意外と良い」
-スタートアップAの代表
「足元がぐらつき、風が強い環境に身を置くのが良いのではないか」
-スタートアップBの代表
前者は、自分が大事にしている考え方と似たことを外部から言われた形なので、重みのある言葉として受け止めました。その自分が大事にしている考え方とは、「当たり前を疑う」というものです。
当たり前というのは、「過去に合意形成されて合理的だとされたため、情報を収集し深く考えるまでもなく事実として受け取れる事柄」のことです。つまり当たり前を盲目的に受け入れるというのは思考停止を意味します。過去と現在という外部環境も違えば、その当たり前が必ずしも全員に当てはまるわけでもありません。だからこそ自分は当たり前に対する違和感を感じ取れるように、常日頃からアンテナを張っているし、重要な意思決定の際にはできる限り情報を集め、外部環境と自己の理解のもと、当たり前という枷を外して思考するようにしています。
就活という文脈では、今の時代において当たり前が合理的ではなくなってきているからこそ、逆張りが有効である、というのがかけてもらった言葉の自分なりの解釈です。
後者の言葉について、その言葉をかけられる前に、「あなたはある程度の困難な壁があったとしても、賢く迂回するだろう」と言われました。その時、確かに目的を達成するために乗り越えるべき壁が目の前にあった時、当初予定していた目的から一段下げることで、より乗り越えやすい壁を探すという思考が自分には働く気がしたのです。
これは失敗して周りから能力が低いと思われることや、自分自身に対する期待が裏切られることで自分が傷つくことを恐れていることも要因の一つだと思います。これでは、大きな夢や目標を実現することがいつまで経ってもできないと考えました。
「あなたは目的に対して考えられうる中で常に最善の選択肢を躊躇なく選択できていますか?」という問いに対して、私は自信を持ってYesと答えられなかったのです。
だからこそ、過去の栄光やセーフティネットを取っ払い、不安定なスタートアップという場所に身を置き、困難に正面から向き合わざるを得ない状況で日々もがくことが成長や自己実現のために重要な気がしたのです。
これらの考えが発端となり、熟考の末、新卒入社する年である今年の1月ごろに、就職予定の大企業の内定を辞退し、Acompnayへの就職を決めました。
かつて就職予定であった大企業は、一年以上就職相談に載ってもらっていたため、本当に感謝しかありません。会社としても優秀な方が多く、本当に魅力的な会社です。
それでもなお名古屋のスタートアップであるAcompanyを自分が選んだ具体的な理由について次に説明していきます。
Acompanyを選んだ理由
以下の四つが自分がAcompanyを選んだ理由です。
- 技術が自分の興味と一致
- 技術を社会に実装していくこと
- 事業的な難しさ
- 会社として優秀なメンバーが揃っている
技術が自分の興味と一致
自分は最初の自己紹介で触れたのですが、低レイヤー技術とプライバシー保護技術のどちらにも興味がありました。
もちろんいわゆるWebアプリケーション開発もインターン等で経験しており興味があったのですが、昨今のAIツールの発展により単なるWebアプリケーション開発の難易度は大きく下がりました。だからこそ、深いコンピュータサイエンスの知識を要するソフトウェア開発に興味があったのです。
さらにプライバシー保護やセキュリティというのは、あらゆる物事の安心・安全の基盤(それがないとあらゆる前提が破綻するもの)となっていると思っており、それをプロダクトとして作れることに魅力を感じていました。
具体的には、AcompanyではTEE(Trusted Execution Environment)という秘密計算技術を扱うのですが、プロセッサに搭載された技術であるが故にプロセッサの知識が知識が必要だったり、TEEを動かすためにLibraryOSを使うことがありOSの知識が必要だったり、低レイヤーの知識が必要となる場面が多いのです。逆にそれらを開発の中で学べる環境であるとも言えます。
もちろん裏側でTEEを使用しているものの、DCR(データクリーンルーム)というデータ処理基盤をプロダクトとして作っているため、大規模なデータを処理するためのバックエンド開発もしており、データエンジニアリング・バックエンド・インフラの知識・技術も必要だし学ぶことができます。
技術を社会に実装していくこと
Acompanyの事業が他のスタートアップよりもエンジニア目線で面白いと感じるのは、技術を社会に実装していく点です。
多くのスタートアップでは、技術を使ってプロダクトを作るということで社会に新たな価値を生んでいますが、Acompanyでは秘密計算という世の中にまだ浸透していない、大きな市場がまだ形成されていない技術をプロダクトを通じて社会に実装していくのです。
技術者・研究者としてこんなに面白いことは他にあるだろうか?
昨今、AIという技術がChatGPTというプロダクトを通じて社会に実装されたのは目新しいと思います。同様に、秘密計算という技術を社会に実装していくためのプロダクトを私たちは開発しています。
かつてHTTPがHTTPSとなり、通信中のデータを暗号化するのが当たり前になったのと同様に、秘密計算を用いて処理中のデータも暗号化するのが当たり前の時代が来ると私たちは踏んでいます(実は、秘密計算にはRemote AttestationというHW/SWの完全性を保証するための技術が用いられており、秘匿性の担保以外にも数多くのメリットがあります)。
事業的な難しさ故の面白さ
セキュリティ・プライバシー保護という事業領域を扱っているからこそ、技術とビジネスだけではなく、法律というものが重要になってきます。
だからこそ事業的な難易度は高いものの、技術・法律・ビジネスのチームがそれぞれ密に連携をとりながら業務を進める必要があります。そのため、他のスタートアップでは経験できないような、法律も含め社会を変える事業推進を近くで見ることができ、エンジニアである私にとっても貴重な経験であると感じたし、そこに面白さを感じました。
実際入社した後も、必要最低限の法律を押さえたり、プロダクト開発の中で法律の専門家チームに相談したりすることもあります。
会社として優秀なメンバーが揃っている
一般にスタートアップに対して、人材面での不安を指摘する声は学生の間だとよく聞かれ、実際に自分も会社に優秀なメンバーが揃っているかは気にしていました。
ただAcompanyには、ACM CCSというセキュリティのトップカンファレンスに4年連続5本通している百瀬さんや、セキュリティキャンプの講師も務め5年以上TEE技術に携わってきた櫻井さんなどの優れた技術メンバーが在籍しています。他にも暗号研究者、メガベン出身者、数学のPhD取得者、CTO経験者なども在籍しており、メンバーが充実しています。
実際にTEE技術のintelとの共同研究も進めていることは、技術力の高さの大きな裏付けにもなっていると思います。
-Acompany、ハードウェア型秘密計算(Confidential Computing)を牽引するグローバルリーダー インテル社の研究者と共著論文を公開
さらに過去にNECやLINEヤフー等で秘密計算をはじめとするPETs (Privacy Enhancing Technologies)の研究・事業開発を進めてきた竹之内さんも所属しています。現在、デジタル庁 データセキュリティワーキンググループ委員も務めており、最近もカナダで開かれたOECD DFFTのワークショップで秘密計算(Confidential Computing)に関する講演をされてきました。
-Acompany 執行役員 竹之内、日本からの代表者として6月16日にカナダ・オタワで開催されたOECD DFFTエキスパートワークショップにて、機密コンピューティングに関する講演をしました
ここで言及した以外にも、非常に優秀で熱量の高いメンバーが揃っているため、自分の成長環境としても、会社の安定性としても間違いないと思ったし、入社後はさらにその気持ちが強まりました。
なぜ今スタートアップが熱いのか?
私はスタートアップの中でもAcompanyを選んだわけですが、一般にエンジニアにとってスタートアップへの就職は、今のAI時代において積極的に取るべき選択肢であると考えます。
理由としては以下の二つです。
- 誰でもどこでも学べる時代
- 要件定義能力の重要性の高まり
誰でもどこでも学べる時代
LLMの発展とChatGPT等のプロダクトを通じた知識の民主化により、学ぶ意思のある人であれば誰でもどこにいても学ぶことが可能な時代となりました。
それゆえ、周りに優秀なエンジニアが必ずしも多くなくても、自分で学びながら成長していくことが容易となったのです。先輩社員に聞くより、体系だった形でより詳細にわかりやすくLLMが回答してくれる可能性があるのです。
とはいえ、会社やそのエンジニアの頭の中に蓄積されたナレッジもある気がするし、何よりそのような優秀な方は自分のベンチマークとなり、自分を常にモチベートしてくれます。そのため、優秀な人は周りに最低限数人いることは重要だと考えます。幸いAcompnayには優秀な方が多く在籍しており、私自身何人か目標として据えている人がいるため、そこには全く困りません。
要件定義能力の重要性の高まり
Claude CodeやCursorのようなAIコーディングツールにより、コードを書くスピードが圧倒的に速くなりました。
仮にAIが全ての要件をコンテキストに入れた上でコードを書いてくれるのだとしたら、何がプロダクト開発のボトルネックになるのでしょうか?それは言語化された要件の質だと考えます。
人間はある目的を達成するためのプロダクト要件を考える際に、言語化できるものだけではなく、言語化が難しい経験的な直感や無意識的に備わっているセンスをも動員して要件を考えます。AIに処理を委託する以上、そのインターフェースとして言語を利用する必要があるのですが、人間の言語化には限界があります。そのため、要件定義のための材料となるものを全て言語化するのは不可能です。だからこそ、要件定義自体をAIに全て任せることは難しく、要件定義とそれ自体の言語化は人間が行う必要があるのです。
このような要件定義は大企業では多くは立ち会えず、どうしても既存の大規模プロダクトの開発に途中から入るということが多いです。一方で、スタートアップでは0→1のフェーズに立ち会うことが多く、必然的に要件定義を行う回数が多くなり、要件定義能力を磨く機会に多く立ち会えるのです。
スタートアップにはリスクはないのか?
「とはいえ、、、」という思いがあなたの中でモヤモヤしているのではないでしょうか?
スタートアップに対してついてまわるリスクが本当にリスクかを考えると、意外と大したリスクではない、またはそもそもそのリスクであるという認識が誤っているということがあるのではないかと私は考えます。
一般に考えられるいくつかのリスクについて考えていきましょう。
安定したステータスが得られない
確かにいわゆる大企業とは異なり、周りからわかりやすいステータスが得られるわけではありません。
ただ、そのようなわかりやすいステータスは本当に必要でしょうか?
AIの台頭により、今後多くの人がAIに仕事の一部を代替される危機に瀕することになると思います。そうなった際に、実際に代替されるかどうかの判断は、当然「AIが出せない価値を出すことができるか?」になります。つまり、ステータスではなく、個人の能力に対して今後はより強いスポットライトが当たると思います。
さらにAIによって、採用時の人の能力の推定が今より精緻なものになる可能性もあります。
ゆえに安定した社会的ステータスそのものは重要ではなく、各人がどれだけ価値を生めるのかが重要になるのではないかと考えます。
倒産する恐れがある
これもよく言われるものですが、スタートアップはよく選べばその可能性を低くできると考えます。
優秀なメンバーが在籍していることや資金調達がうまくいっていること、取引先として大企業がいるかなどがそのスタートアップを見極める上で重要な観点になると思います。その点、Acompanyは全て満たしており、倒産の可能性は低いと自分は判断しました。
さらに、政府が主導してスタートアップを支援する「スタートアップ育成5か年計画」という施策も出てきており、これはスタートアップ市場全体の追い風となっています。
-https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/kaisetsushiryou_2025.pdf
もちろんスタートアップは倒産の可能性は大企業よりは大きいかもしれませんが、その分アップサイドが大きいことも忘れてはいけません。Acompanyもそうですが、多くのスタートアップがSO(ストックオプション)を発行しており、上場などによって大きな利益を得ることができる可能性があるのです。
給与が低い
こちらに関しては、実態と認識が乖離しているように思えます。
ある調査によると、以下のようにスタートアップは上場企業を上回る給与水準であることがわかります。
正社員の年収を開示した78社の23年度の平均見込み額は前年度比6%増の710万円だった。700万円超えは調査開始以降初めてで、上場企業を上回る水準だ。
もちろん標本のとりかたによって平均の値が変わるため、上記の結果からどちらが高いとは一概には言い難いものの、スタートアップでも大企業に劣らない給与水準である企業もそれなりに多いため、「スタートアップは給料が低い」という既成概念に囚われるのはあまりにも勿体無いと思います。
これまで述べてきたようにスタートアップには意外とリスクがなく、知られていない魅力が多いと思います。
Acompanyでの仕事
Acompanyで自分が取り組んでいる業務としては、主に以下のようなものが挙げられます。
- Confidential Serverless Computingサービスのバックエンド実装
- Confidential Serverless Computingサービスのフロントエンド実装
- インフラの構築・運用・保守
- AI推論や大規模データ処理ロジックの秘密計算環境へのデプロイメント
- 案件のプロジェクトマネジメント
それ以外にも、部署の垣根を超えて以下のような多様なことに挑戦できています。
- 企業カルチャー育成プロジェクトへの参加
- 「会社の方向性」と「社員の行動の指針」を定め、それを組織に浸透させる施策の考案や積極的な体現を行います
- マーケティングチームのメンバーと共に展示会への参加
- 自社ブースにて立ち寄った方に対して自社プロダクトの説明を行いました
執筆時点では入社して4ヶ月ですが、これほどにまで多くのことを業務の中で経験できるのはAcompanyという環境のおかげだと思っており感謝しています。至らない点も多い自分ではありますが、日々業務の中でPDCAのサイクルを回しながら、少しずつ成長している実感はあります。
なぜ今Acompanyが熱いのか?
上記までは私目線で、Acompanyがいかに良い環境であるかを述べてきたわけですが、最後にファクトベースでAcompanyがなぜ今熱いのかを説明していきたいと思います。
- KDDI株式会社と業務提携
- 私も開発に携わる、AcompanyのDCR(データクリーンルーム)が実際に商用利用されている事例の一つです。
-AcompanyとKDDI、プライバシー保護技術における提携を開始
-秘密計算はAppleも注目するAIセキュリティ技術へ / 2025年は「AIセキュリティと秘密計算」で世界を目指す
- 「スタートアップW杯2025」東京予選で優勝し、世界決勝へ進出
- 数多くのスタートアップの中から弊社が10月にサンフランシスコで行われる世界決勝へ進出しました。
-Acompany、世界最大級のスタートアップピッチコンテスト「スタートアップW杯2025」東京予選で優勝、日本代表として米国での世界決勝へ進出
- 国内屈指の複数の巨大ファンドから資金調達
- 資金調達により今後さらに事業成長を加速させていきます。
-巨大ファンドによるシリーズB調達と、Acompanyの次のステージについて
- VCからAcompanyへ転職
- VC出身で、元々Acompanyの株主として関わっていた植木さんが「ここに賭けたい」という強い思いで入社されました。
-コンサル、VCを経てスタートアップへ。5年越しの意思決定をした話
最後に
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。自分自身就活ではかなり悩みました。ただ、悩みながら思考する過程で、自分や自分の人生と正面から向き合うことができ、今振り返ると貴重な時間だったと思うし、全く無駄ではありません。
ぜひ自分が納得できる意思決定をしてほしいし、その結果としてAcompanyを選んでくれるのであればとても嬉しいです。
入力された情報は学習には使われませんが、念のため個人情報の入力はお控えください。









