PETsによる「Verifiable Trust」の実現
公開日:2026.05.01
※この記事は『2026年6月23日』に公開した内容をもとに掲載しています。
Acompanyの執行役員VP of Public Affairsの竹之内です。プライバシーテック協会の事務局長もしております。
2025年6月16日にカナダのオタワで開催されたOECDの会合にて、「Building Verifiable Trust in DFFT through PETs」というタイトルでプレゼンしてきました。今回は、その内容を簡単に説明します。(プレゼン資料)
なお、関連してプレスリリースを出していますので、こちらも是非参照ください。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000114.000046917.html
今回の記事を簡単に箇条書きすると以下の通りです。
- AIの時代になりデータが重要となり、国家間でもデータ流通が望まれる。そこで重要なのが信頼(Trust)。
- このTrustを前提としたデータ流通がDFFT(Data Free Flow with Trust)で、このTrustはVerifiable(検証可能)であるのが望ましい
- PET(Privacy Enhancing Technologies)の一種である、機密コンピューティングはVerifiableなTrustを実現できる
- 特にRemote Attestationが重要なので、しっかり行うべき
- 機密コンピューティングはハードウエア技術であるものの、ミドルウエア部分も重要なので、この安全性も忘れずに
- 安全を支える重要技術なので、各国とも技術投資をしていくべき
- 技術と法制度解釈の国家間での連携も必要
会合の概要
出席した会合は「OECD Expert Workshop on PETs and AI」です。これは、OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development、経済協力開発機構)において検討されている、DFFT(Data Free Flow with Trust、信頼性のある自由なデータ流通)の実現方法について、特にPETs(Privacy Enhancing Technologies、プライバシーテック)関係の技術や政策などの専門家が集まって議論するワークショップです。
DFFTとは、2019年に日本の安倍首相(当時)が提唱した国家間のデータ流通に関するコンセプトです。デジタル庁のページに詳しく書かれていますが、「プライバシーやセキュリティ、知的財産権に関する信頼を確保しながら、ビジネスや社会課題の解決に有益なデータが国境を意識することなく自由に行き来する、国際的に自由なデータ流通の促進」を目指しています。
DFFTを具体化していくため、2023年の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)で、国際メカニズム(IAP: Institutional Arrangement for Partnership)の新設が合意され、同年にOECDに事務局を置くことが決まりました(下の図の左の「Secretariat」)。

そして、複数の作業グループ(WG: Working Group)が設置され、DFFT Expert Communityが形成され、様々な専門家からの意見をもとに議論が進められています。
私は、PETs(Privacy Enhancing Technologies)の専門家として議論に参加し、今回プレゼンしました。
なお、このワークショップは過去、2024年5月にロンドンで、2024年7月にシンガポールでも開催されています。この過去2回の会合で議論された内容を参考に、今回3回目の開催に合わせてOECDから「Sharing trustworthy AI models with privacy-enhancing technologies」というPETsを用いたAI関係のユースケースを紹介したドキュメントが発行されていますので、よければ参照ください。
今回の会合は、日本政府(デジタル庁)とカナダ政府の共催で、カナダ開催のG7の時期に合わせて、2025年6月15日(月)に行われました。今回のワークショップでの議論内容は、その週の後半に行われる「G7 Data Protection and Privacy Authorities Roundtable」での議論でも参考にされたと思います。
という感じで、固く説明すると上記の通りなのですが、少し柔らかく、ざっくり説明すると、以下のとおりです。
- 私たちの生活をより豊かにするためには、データ分析やAI活用が欠かせない。そのためには、データ自体が重要で、それは国の中に閉じるものではなく国を跨ぐもの。そして、国家間での安全な流通に必要なのは、信頼(Trust)である(≒DFFT)
- このTrustの実現は、技術や制度など様々なものが必要で、しかも国家間での調整・合意も必要。この国際的な議論の場や連携の枠組みが設置され、議論が進んでいる(≒IAP)
- 様々ある論点の中で、技術としてPETsが注目されている。このPETsの専門家として竹之内も議論に参加。今回プレゼンした。
大変光栄な事であり、当然私1人の力量では到底無理な内容なので、多くの方々の助けを借りてプレゼンさせて頂きました(記事の後半に謝辞と参考文献を記載)。
以降に、プレゼン内容をご説明致します。資料はこちらからダウンロードできますので、参照頂ければ幸いです。
プレゼンの概要

プレゼンのタイトルは以下です。
Building Verifiable Trust in DFFT through PETs
- Introducing Use Cases Utilizing Trusted Execution Environments -
タイトルに込めた意味は、PETsによってDFFTのTrustを検証可能(Verifiable)な「Verifiable Trust」にしましょう、です。
このタイトルのもと、VerifiableなTrustをPETsの一種であるTEE(Trusted Execution Environment)で強化できることを説明し、具体的なユースケースを紹介しました。
なお、TEEを用いた処理はConfidential Computing (機密コンピューティング)と呼ばれます。以降は機密コンピューティングと記載します。
また、PETsはプライバシーテックとも呼ばれています。プライバシーテックの全体像や機密コンピューティングの概要は、以下のプライバシーテック協会からの提言資料も参考になります。
https://privacytech-assoc.org/news/25-0408
https://privacytech-assoc.org/news/25-0107
プレゼンは2部構成で、Part 1ではVerifiable Trustが望ましい理由やTEEについて説明し、Part 2ではユースケース説明と提言を行いました。
Part 1:VerifiableなTrustとは
Trustの説明
DFFTを具体化していくためには、この「Trust」が何であるかついて、関係者間でのある程度の共通理解が必要です。この「Trust」は、国家間の信頼を意味するのですが、より分解していくと、Trustをどう実現するかの議論が深まります。
「Trust」とは、社会学や心理学など様々な分野で研究されてきております(後半に参考文献を記載)。過去の専門家らの議論結果も踏まえると、技術的な視点では、Trustは主に以下に分類されます。
- Implicit Trust(暗黙的信頼):
何の検証も行わずに相手やシステムを信じるようなTrust。主観的。 - Explicit Trust (明示的信頼):
技術的な手段などによって検証可能(Verifiable)なTrust。客観的。
これを踏まえ、私はDFFTのTrustは「Explicit Trust」つまり「VerifiableなTrust」を目指すべきだろうと主張しました。
ただし、Verifyするには一定のコストがかかりますし、限界もあります。例えば、人が見てチェックする事もVerifyの一つの方法ですが、チェックミスもありえます。チェックする内容に依存しますが、機械が行ったほうが効率が良い場合も多くあるでしょう。
そこで、PETsなどの技術を用いることで、「VerifiableなTrust」を効率的かつ効果的に行えると主張しました。
なお、この様な用語整理や似た提言は過去からも行われています。例えば日本ではTrusted Web検討会で、Trustが議論されています。この検討会の報告書では、下の図の様に、Verifiable な部分を増やす事が望ましいと提言しています。

Trustの対象(Verify する対象)
上記の様に、まずはTrustをverifyできる/できないで分類しましたが、さらに何をverifyするかという観点で分類していきます。下の表は、何をTrustするかという、Trustの対象を整理した表です。

この表の通り、Trustの対象(つまり、verifyする対象)は様々あります(なお、綺麗にMECIに分類する事は難しそうなので、主なものを列挙する形で分類しています。)
そして、これら分類したTrustの対象に対応する、Trustを支えるための技術が存在すると整理しています。一例としては、先ほどのTrusted Webでも特に議論されているVerifiable Credentials(VC)です。VCは簡単に言うと、属性(Credential)を検証可能とする技術です。例えば、VCを受け取った人は、VCに付加されているデータの発行者のデジタル署名を利用して検証できます。上記の表の整理では、VCはDataのIntegrity(データが改ざんされてか)やAuthenticity(データ発行者が誰であるか)などを対象とした技術として分類しました。
AIの時代では、これらDataのTrustだけでなく、処理そのものや処理環境のTrustも重要となると考えています。そこで、私のプレゼンでは、処理環境が安全であるかVerifyできる事にフォーカスした提言としました。
なお、上記の表からも示唆される通り、全体としてTrustを実現するには単一の技術ではなく様々な技術が当然必要となります。特に他のPETsであるMPC(Multi-Party Computation)、準同型暗号(Homomorphic Encryption)、差分プライバシー(Differential Privacy)、連合学習(Federated Learning)などとの組み合わせや、VCとの組み合わせなども望ましいと考えます。
さらに、上記のTrusted Webの図で示されている通り、技術だけでなく制度も必要です。現在、国内でもトラストに関する政策議論が進んでおります。例えば、先日(2025年5, 6月)公開された、「デジタル・ニッポン 2025」や「データ利活用制度の在り方に関する基本方針」や「デジタル社会の実現に向けた重点計画」なども参考になります。
AI処理での処理環境のTrustの必要性とTrustモデル
AI時代では「処理環境のTrust」、つまり「処理環境をVerifyできる事」が重要と述べましたが、その理由を説明します。
AI処理は、計算量が膨大で処理が重たいため、PCやスマホなどでの処理が追いつかないため、クラウドで処理したり、AIに入力するデータを増やすために企業間でのデータ連携したりすることが望まれます。つまり、AI処理は、自社だけで処理が完結せず、他社と連携した処理が普通となるのです。
この典型的な他社連携のパターン(≒Trustのパターン)は大きく3つに分類できると考えています。
- 1. 委託処理モデル(Delegated Processing)
- 生成AIなどのAI処理は重いため、スマートフォンやPCでは追いつかないため、クラウドなどで処理
- 処理を委託する先であるクラウドを検証
- 2. 集中協調モデル(Centralized Collaboration)
- 複数の企業が共通のプラットフォームにデータを送信して連携
- 各企業がプラットフォームを検証
- 3. 分散協調モデル(Decentralized Collaboration)
- 複数企業が互いに直接連携
- 相手側の処理環境を相互に検証

Trustモデル (図引用:発表資料)
この様にトラストモデルを分類する事で、他社事例がどのパターンなのか、自社はどのパターンを目指すべきかなどの議論がスムーズになると考えています。
処理環境のVerifiabilityの要件
ここまでAI時代に重要となる処理環境のTrust(処理環境をverifyすること)が重要であることを述べました。続いて、このVerifyができるような処理環境の性質(処理環境のverifiability)とは具体的に何か?技術的に何を満たすべきか?という性質を明確にしていきます。
私は、処理環境をVeriableにするためには、少なくとも以下の2つの性質を満たす事が求められると考えています。
- データの機密性(Confidentiality):処理環境を送られたデータが漏洩しない事。(例: たとえ処理環境の管理者であってもデータを閲覧できない事)
- コードの完全性(Integrity):処理されるソフトウェアが意図したものであり、不正に処理内容(処理コード)が改ざんされていない事。(例: 不正改造していわゆるバックドアが仕掛けられ、データが不正に見られてしまわない事)
もちろん他にも満たした方が良い性質はあるものの、特に注目すべき性質は上記と考えています。
処理環境のVerifyに有力な機密コンピューティング
上記で挙げた、「データの機密性」と「コードの完全性」は、機密コンピューティングが対象としている性質です。また、特にAI処理が対象となると、処理速度の観点で機密コンピューティングは有力です。そのため、今回の提言は機密コンピューティングにフォーカスしました。

機密コンピューティングとは、ハードウエアを用いた技術で、処理中のメモリのデータを秘匿したまま処理できるのが特徴です。通常のコンピュータでの処理では、処理中のデータはメモリに保存されており、管理権限があれば閲覧する事ができます。そのため、たとえ通信途中は暗号化していたり、ストレージにデータを保存しているさには暗号化していたとしても、処理中のメモリを見る事で機密データが不正に閲覧される恐れがありました。機密コンピューティングはこの様な事を防ぐ事ができます。つまり、上記で示したデータの機密性を提供します。
また、コードの完全性を検証できるのが、TEEのリモートアテステーション(Remote Attestation)という機能です。これにより、処理環境で実行されるコードの完全性を外部から検証できるのです。これが今回のVerifiable なTrustについての最も重要な技術にあたります。(この技術の詳細は次の節で説明します)
さらに、今やGPUも機密コンピューティングをサポートする様になり、AI処理をこの技術を用いる事例も増えつつあります。
この様に、機密コンピューティングはAI処理における処理環境をverifyするのに適しているのです。
なお、もちろん機密コンピューティング以外の技術との組み合わせる事で、上記で説明した「データの機密性」と「コードの完全性」をより強化す事も可能です。例えば、MPC(Multi-Party Computation)技術によって、データの機密性をより高められ可能性があります。また、準同型暗号によって鍵を用いて機密データを暗号化する事で、守るべき対象のデータを鍵データに局所化することはverifyする対象を小さくする事繋がるので、よりverifiableにできそうです。さらに、差分プライバシーもデータ公開の量を定量化する方法と捉えれば、どの程度の開示が許容されるのかの合意形成の役に立つため、これもverifiabilityを高めるための技術といえそうです。
このように、ユースケースに応じて適切な技術を選択・組み合わせる事でverifiableな環境を実現するのが望ましいと考えます。
なお、機密コンピューティングに関しては、私が過去に行った寄稿記事も参考になります。
- 日経デジタルガバナンスへの寄稿記事
- 日経クロステックへの寄稿記事
リモートアテステーション
続いて、今回の提言で肝となる機能である「リモートアテステーション」について説明します。ここでは技術的な正確性を省き、概念的に説明をします。

上記の図は、左側のリモートアテステーションのクライアントが、右側のクラウド上の機密コンピューティングの処理環境をverifyする場合な概念図です。
機密コンピューティングでは、ハードウェアのチップが「信頼の起点(root of trust)」となります。そして、この信頼の起点から、その上に乗るミドルウェア(guest osやhypervisorを含む)とアプリケーションのコードが不正改造されていないかをverifyしていきます。
なお、信頼の起点がハードウエアとなることは、機密コンピューティングに関する業界団体であるConfidential Computing Comsortiumの定義に従っています。(逆にいうと、hypervisorなどが信頼の起点となっている場合は、この議論における機密コンピューティングに含めず対象外としています)
一般に、ソフトウエアの方がハードウエアよりも改変が容易であるため、ソフトウエアの不正改造の有無については念入りにverifyすべきという発想です。
また、リモートアテステーションは暗号知識がないと正しく行う事は難しく、リモートアテステーションを依頼するクライアント部分の処理を代行するソフトウエアも必要となってきます。この処理部分も今回の提言ではミドルウエアの一部として表現しています。
ここでの提言の趣旨は、機密コンピューティングはハードウエア技術とはいえ、安全性を検証するためにはミドルウエア部分となるソフトウエア部分も重要である事です。

また、上記のような機密コンピューティングの技術スタックを示しつつ、ベンダーを簡単に列挙しました。機密コンピューティングはハードウエアチップだけでなく、そのハードを含むクラウド環境を提供するベンダー、またミドルウエアを提供するベンダーも存在します。ちなみに弊社Acompanyもその一つです。
なお、一般に開発投資額は、ハードウエアよりもソフトウエアの方が安く抑える事が可能であり、比較的参入も容易であるため、ミドルウエアのベンダーはハードウエアベンダーよりも比較的多いです。
Part 2:機密コンピューティングを利用したユースケース
続いて先ほど紹介した各Trustモデル毎に機密コンピューティングを使ったユースケースを紹介しました。

スマートフォン向け生成AI(Apple Intelligenceの事例)
まずは最も先進的で有名なAppleの事例です。

Appleは昨年2024年に生成AIサービスをiPhone16に適用すると発表し、2025年4月からは日本でも利用可能となりました。
このサービスはApple Intelligence と呼ばれ、クライアント(スマートフォン)では処理能力が追いつかない重たい生成AI処理をAppleのクラウドで処理しています。クラウド側は処理はPrivate Cloud Computeと呼ばれSecure Enclaveという機密コンピューティング技術が使われています。
ここでVerifiability の観点で重要なのは、Appleはクラウド処理での安全性を検証を外部のセキュリティ研究者などが可能な様に、仕様とソースコードの一部を公開し、検証用の環境を提供している点です。これはverifiableなtrustを実現するための大変参考になる事例だと思います。
グローバル製造業におけるサプライチェーン最適化
続いてプラットフォームにてデータ連携するユースケースを紹介しました。日本ではMaterial InformaticsやProcess Infomaticsといった製造業の分野での機密コンピューティングの事例が存在するので、これら事例を参考としました。
例えば原材料の種類や混ぜる割合や混ぜ方などのパラメーターは素材開発において極めて機微性の高い営業秘密に該当します。そのため、基本的には社外にこれらの情報を開示することはあり得ません。また、素材開発は国家を跨いで工場があることもあります。
一方、今後の素材開発競争を考えると、サプライチェーン全体において、細かなパラメータ調整を素早く行う事も求めらます。そのためには、パラメータを開示して調整できると良いのですが、営業秘密であるため開示はできません。そこで、機密コンピューティングが役に立ちます。各企業は機密コンピューティングが適用された処理プラットフォームにデータを送り、そこでデータを秘匿したまま最適化の調整が行われます。

位置情報×航空券データの横断分析
相互にverifyしつつデータ突合する事例としては、NTTドコモとJALらの事例が特徴的です。この事例では、NTTドコモが持つ位置情報とJALが持つチケット情報を突合分析するものです。

位置情報は機微性が高い一方、旅行者の行動分析など有用性が高いデータでもあります。また、個人データを企業間で突合分析する際に、相互にデータを開示し合う場合は、個人情報の第三者提供に当たるため個人同意が必要になってくる場合もあります。
この事例では、k-匿名化やハッシュ化など行いつつ、準同型暗号を用いたMPCの一種でもあるPrivate Set Intersection Cardinality処理(共通集合の数を計算する処理)を行い、さらに集計結果からの個人特定を防ぐために差分プライバシーを適用しつつ、リモートアテステーションを行っています。
技術的な詳細は以下が参考になります。
https://www.docomo.ne.jp/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol31_1/index.html
また、この様な複数企業のデータを突合分析するような処理はData Clean Roomと呼ばれ、弊社も共著で論文を出しています。
https://en.acompany.tech/news/acompany-joint-KDDI-DCR
法的観点と国際的な課題

先ほど紹介した事例は、一定の条件を満たしているため、日本法では個人情報の処理に該当せず同意が不要となっております。
しかし、日本法と海外の法律は異なるため、海外に技術適用をおこなうには適用先の国における法制度の確認が必要です。この法的な確認は、各国毎に基本的には各企業毎が弁護士に依頼することで行います。これは、一定の時間とコストがかかるため、非効率であると主張しました。
また、このように不透明であることから、技術開発投資を行う際のリスクがある程度高いとの判断にも繋がり、技術開発投資の抑制にも繋がりかねません。私としては、これがPETsの技術開発や適用を妨げている原因の一つではないかと考えております。
まとめと提言

以上の発表内容を簡単にまとめると以下の通りです。
- DFFTのTrustは検証可能なTrustである「VerifiableなTrust」であることが望ましい
- そのためにはPETsが有効で、特に機密コンピューティングが有力である
- リモートアテステーションによって、環境信頼のTrustが実現できる
これらを踏まえ、以下を提言しました
- 機密コンピューティングのリモートアテステーションを用いた事例を、今後作成予定のユースケース事例集に入れるべき
- PETsと法律の関係について国際的に議論していくべき
- Trustを支える技術は重要であるため、各国で技術開発投資を進めるべき。
特に3つ目の提言については、特定ベンダーに過度に依存することがさけられ、経済安全保障の観点でも、より安全で持続的なTrustの実現が期待できるという趣旨です。
特に、リモートアテステーションの説明スライド部分に記載した通り、機密コンピューティングはハードウエア技術ではありますが、技術スタックとしてはミドルウエア部分も含むと考えています。そしてミドルウエア部分はハードウエアよりも改変が容易であるため、Verifiableであることが求められると考えています。また、ソフトウエアはハードウエアの開発よりも初期投資額が比較的小さいため、投資もしやすいと考えています。
DFFTの議論はまだ続きますので、これからもDFFTをより安全なTrustにしていくために貢献していきたいと考えております。
最後に
弊社Acompanyは、2025年5月からTrustをミッションの一つとして掲げて活動をしています。
-Acompany、新コーポレートミッション「Trust. Data. AI.(あらゆるデータとAI活用に、信頼を。)」を策定し、コーポレートサイトを公開
「プライバシー」に留まらず、データやAI活用における「トラスト(信頼)」 領域へ事業を拡大しています。また、単なる技術開発だけを行う企業ではなく、ガバナンス支援も行う会社でもあります。
Acompanyが国内に閉じたデータ・AI活用だけでなく、国を跨いだデータ・AI活用をも目指しています。今後も、DFFTはじめ様々な政策議論にも貢献していき、安全で信頼できる世界を共に目指せればと思います。
謝辞
本文にも記載しましたが、提言内容の検討など、大変多くの方々の助けを借りてプレゼンさせて頂きました。お名前の列挙は差し控えさせていただきますが、この場を借りて感謝申し上げます。大変ありがとうございました。
また、特に私はTrustについて素人であり、今回勉強させて頂きました。資料をご紹介・ご説明頂いた専門家の方々、また、過去にこれら検討に関わり資料作成された方々には大変感謝しております。
間違った解釈や筋悪な提言となっていないかなど、ご指摘頂けますと幸いです。是非今後の議論で挽回させて頂ければと思っております。
参考文献
- Trusted Web
- セコム 松本泰さんの各種資料
- https://www.iwsec.org/scis/2025/_img/page/YasushiMatsumoto_SCIS2025_InvitedTalk.pdf
- https://www.jst.go.jp/ristex/info/files/20250411_digist_matsumoto.pdf
- https://www.jnsa.org/seminar/std/2023/data/5_matsuoto.pdf
- https://www.jlf.or.jp/assets/work/pdf/kenshu_190910_04.pdf
- https://www.jnsa.org/jnsapress/vol47/2_kikou-2.pdf
- JSTの文献
- Confidential Computing ConsortiumのExecutive DirectorでもあるMike BursellさんのBlog記事
- 欧州のCONNECTプロジェクトのレポート
付録
プレゼンの様子など




Workshopの結果
このWorkshop後に、OCDEのClarisse Girotさんが結果についてLinkedInに投稿しております。(各セッションの写真や集合写真も投稿されているため、より雰囲気も伝わると思います)
Highlights from these 2 days:
➡️ PETs are here, embedded in devices and digital technologies: privacy is not a friction point anymore.
➡️ Think of PETs as shaping the future of data governance and data-driven innovation, not only as about compliance.
➡️ The latest generation of PETs brings about a paradigm shift in the collection, processing and management of data with trust: confidentiality, security and trust are now directly integrated into data processing infrastructures
➡️ Just as HTTPS enabled trust for e-commerce and e-finance to flourish, PETs can enable new ways to collaborate with economic and social benefits across organisational and jurisdictional boundaries.
➡️ Despite growing recognition of their potential, adoption remains limited. Startups, SMEs offering cutting-edge PET solutions often struggle to establish sustainable business models, especially under fragmented or uncertain frameworks
➡️ Stronger, clearer, more consistent signals are needed from the policy community that PETs are not just technically promising, but a key enabler of the next frontier of data innovation, to foster market confidence, reduce uncertainty, and bring PETs into mainstream data governance.出典:ClarisseさんのLinkedInの投稿より
上記は、Clarisseの投稿内容のうち、この会合でのサマリーを列挙した部分です。特に3番目の「The latest generation of PETs brings about a paradigm shift in the collection, processing and management of data with trust: confidentiality, security and trust are now directly integrated into data processing infrastructures」が、私の発表にも関連しているかと思います。この記載の通り、PETsは処理基盤をも安全に処理できます。
Clarisseさんの「🔕 Stop saying “Innovation vs. Privacy”, say 📣“Privacy for Innovation, and Innovation for Privacy”」という言葉の通り、プライバシー保護とイノベーションは対立関係ではなく、イノベーションのためにも必要です。今後も良い技術の社会実装に向けて邁進していきたいと思います。
日本のトラストに関する政策動向
本文中でも触れたが、日本のトラストに関する政策の方針は自民党の「デジタル・ニッポン2025」などでも触れられています。
以下に、DFFT・国際連携やPETsについて記載されている部分を引用します。
2.2 トラストの確保
データの連携と利活用を安全かつ円滑に進め、産業データスペースの構築などにつなげていくためには、「トラストの確保」が不可欠である。・・・ DFFTにおいてもこのような「データセキュリティ」が位置づけられている。
・・・また、信頼性の確保にあたっては、従来の制度的・技術的手段に加え、・・・プライバシー保護技術(PETs: Privacy Enhancing Technologies)を適切に活用し、トラスト要素の体系的な整理に柔軟に取り入れることも重要である。・・・さらに、このようなPETsも含めたトラストサービスについて、民間の投資意欲も喚起し、我が国が国際的な優位性を保持できる技術の開発・確立を強力に進めるべきである。
さらに、トラスト確保の基盤は国内におけるデータ連携のみならず、国際的なデータ連携においても求められるものである。・・・出典:自由民主党 政務調査会 デジタル社会推進本部、デジタル・ニッポン2025 データ戦略
この内容から分かる通り、今後はトラストが重要であること、DFFTや国際連携が重要であることが示されています。
さらに、以下の記事に記載の通り、現在のOECDのデータ流通事務局長の体制は、日本からの提言がしやすい状況でもあります。
是非、日本のトラストに関する考え方や関連技術をDFFTなど国際的なルール検討の場に提言し、国内に限らず世界全体でより安全な社会が実現されるよう、共に活動できれば幸いです。
WRITER
Takao TakenouchiAcompany / 執行役員VP of Public Affairs
技術と法律の橋渡しをするパブリック・アフェアーズ活動や、新規事業開発・事業連携などを担当
入力された情報は学習には使われませんが、念のため個人情報の入力はお控えください。









